謝罪論
古田徹也
2023年
本書は、哲学・
倫理学を専門とする古田准教授による著作である。
本書は、分析対象を謝罪に設定したことで、類書がほとんど存在しない書籍に仕上がっている。
本書のエピローグでは、具体的な謝罪のための「実践的なヒント」(270〜279頁)。
これは本書のまとめであり、列挙すると以下のとおりである。
・定型的な表現に頼り切らない
・謝罪の理由として自分が何を言っているかに気を配る
・正当化や弁解との区別を明確にする
・できる限り迅速に行う
・拙速な改心のアピールや無理な約束は避ける
・「自分が楽になりたいだけだ」と思われないようにする
・謝罪をする相手や順番を明確にする
・誰が謝罪をしているか明確にする
このまとめの表題だけを読んでも納得感がある。
ある程度混みいった議論を読み解く必要がある本文に比して、この部分は明快で具体的である。
そのため、本文を読み流した上で、この部分だけを拾い読みするという誘惑に駆られる。
しかしながら、あとがきの端的なまとめは、本文の議論を咀嚼した上で真価を発揮する。
物事を図式的に単
純化して切り分けるマニュアル化は、しばしば人を思考停止させ、現実を歪めてしまう。
重要なのは、謝罪というものの多様な側面に目を向け、柔軟に捉えることであり、「すみません」等々の発話が息づくそのつどの文脈を、前後の言葉や行動を通して明確にしていくことにほかならない。
268頁
そして、最終的には、謝罪論は、コミュニュケーション全般を包摂することまで到達するのである。
子どもに謝罪の仕方を教えるのが難しいのは当然だ。
なぜなら、それはほとんど、この社会で他者とともに生きていく仕方を教えることだからだ。
281頁
本書は、哲学、
倫理学を専門とする著者が、卑近な現象である「謝罪」を分析することにより、実利的な効用とは縁遠いと思われる分野において実利的な効用を提供している特殊性がある。
明快な日本語で哲学・
倫理学等の議論を理解しつつ、謝罪の分析という実利的な効用を得ることもできる良書である。