「知的蛮人」になるための本棚
PHP文庫
2014年
「知的野蛮人」・・・これは、私の目指すべき近代ゴリラのイメージに近いのではないかというぼんやりとした印象を抱き、本書を購入した。
本書は、佐藤優氏による書評である。
佐藤氏は本書でとりあげる本の「基準」を以下の通りに設定している。
私は本を取り上げるにあたって基準を設けた。読者が私の紹介した本を買っても 「つまらない。カネを返せ」というクレームがこないようにするという基準だ。(38頁)
この「基準」は具体的で分かりやすい。
しかし、読み進めていくうちに問題が生じた。
それは、そもそも本書で紹介されている本を読みたいという気持ちが起きないという根本的な問題である。
紹介されている本が魅力的に思えないのである。
本書で紹介された本を実際に読んでみないと「基準」が適切かどうかを判定することができない。
しかし、読みたくならないものは仕方がない。
本書を読んだ他の読者が、本書で紹介されている本を実際に読みたくなったかという点は是非とも尋ねてみたいものである。
もっとも、本書で紹介されている本の中に、私が以前読んだことがあり好著と思ったもの(『白昼の死角』、『ソロモンの指環―動物行動学入門』など)がいくつか含まれている。
そのため、他の本も同様に好著かもしれない。
ここまでは多少ひねくれた筆致で進めてきたが、本書で面白いと思う記述も多数存在した。
以下で、いくつか紹介する。
〈主人は何に寄らずわからぬものを有難がる癖を有している。
これはあながち主人に限った事でもなかろう。
分からぬところには馬鹿に出来ないものが潜伏して、測るべからざる辺には何だか気高い心持が起こるものだ。
それだから俗人はわからぬ事をわかった様に吹聴するにも係らず、学者はわかった事をわからぬ様に講釈する。
大学の講義でもわからん事を喋舌る人は評判がよくってわかる事を説明
する者は人望がないのでもよく知れる〉(②363~364頁)
私は文章を書く時に、しばしば吾輩(=猫)のこの批評を思い出すことにしている。
そして、難しいことについて、いかに内容を変えずに、できるだけやさしく多くの読者に伝えられるかを考える。
丹念に資料を調べ上げた上で、作家の良心にかけて正しいと思うことだけを書くというノンフィクションのルールを清張は愚直なほど守っている。
清張の推理小説が抜群に面白いのは、ノンフィクションの手法によってモデルとなる事件をいったんできるだけ再現した上で、それとは別の構成で架空の人物に作品の中で縦横無尽に語らせ、行動させるからだ。
(140頁 ※松本清張に関して)
また、本書では、読書論が示されており、これは納得できるものが多い。
・本は買うべきで、読みながら書き込みをすることで「自分の本」にしていくことが必要
・人間の能力や経験には限界があるため、読書による代理経験が効果的
・ネットの文章は編集という過程を経ていない点で問題がある。このような文章を読んでいても読解力は磨かれない。読解力を磨きたかったらネットの影響を断つ必要がある。
・読書ノートはハードルが高い。気になったページの端を折るだけでもいい
なお、佐藤優氏による同様のコンセプトの本として『功利主義者の読書術』がある。 こちらで紹介されている本は読みたくなるものが多く、かつ、本書よりは解説に紙幅が割かれている。
本書といずれかを手に取るのであれば、『功利主義者の読書術』をおすすめしたい。