おすすめ ★★★
近代ゴリラレベル ★★★
1 はじめに
2 第一部 問題はどのようにしてできているか
3 第二部 有効かつ有意義な勉強法
4 まとめ
1 はじめに
私は大学受験の際、富田一彦氏の『富田の<英語長文問題>解法のルール144』を教材として使用していた。
同書には息子に向けたメッセージという体裁で、情緒的なあとがきが付されていた。
これが、かなりクセのあるものだったので、富田一彦氏のことは印象に残っていた。
今回、大学受験を離れた身からも興味深く読めそうな本を富田氏が出していたことを知り、読んでみた。
結論としては、以前感じたクセの強さ=ウィットと時折顔を出す毒舌、は健在である。
『試験勉強という名の知的冒険』は、「第一部 問題はどのようにしてできているか」、「第二部 有効かつ有意義な勉強法」という構成である。
2 第一部 問題はどのようにしてできているか
第一部では「<問題>と野に咲く花ではない」という旗印が掲げられている。
問題は人為的に作成されたものである以上、一定のひっかけ=雑音が含まれているとし、様々な雑音を提示する。
本書で提示された雑音は以下の通りである。
①無関係な情報
②無関係に見える情報
③別のものに見える情報
④遠く離す
⑤未知の情報を見せる
⑥絶対に解けない問題を混ぜる
⑦時間に対して分量が多すぎるように見せる
⑧解けないことに対する心理的コンプレックスを刺激する
⑨一部にだけ注目させる
⑩情報を断片化する
⑪消去法
試験問題を素材にこれらの雑音一つ一つが解説されている。
3 第二部 有効かつ有意義な勉強法
第一部で示した試験問題の本質を前提に、合理的なアプローチを提示する。
様々なアプローチが提示されているが、上手く大局を表現しているエピソード(「司法浪人という罠」)を一つ取り上げる。
そんなこんなで、私の所属していた学内団体の塾には司法浪人生が多く、彼らは寄ると触ると試験の苦労話、やれ覚えることが多すぎるだの、三年じゃ覚えきれないだのと話ながら管を巻いていた。そんなある日、そういう話をそれまで黙って聞いていたある理系の学生が、「そりゃお前たち、言い訳だよ。受かるやつは短期間で受かるはずさ」と言い放った。彼がどういう気持ちでそう言ったかはわからないが、当然ながらその言葉は司法浪人生たちの攻撃の的となった。彼らはいかに司法試験が難しいか、長期間の勉強が必要か、ということを口から泡を飛ばさんばかりになって熱く語り、いかにその理系の彼が司法試験の現実を知らないかと責め立てた。それを聞いていた理系男は少しけだるそうに伸びをして、答えた。「わかった。じゃあ俺も受けてみよう。」そして約一年後、彼は見事司法試験に合格したのである。断っていおくが、受かった彼も、何年も司法浪人を続けていた連中も、ともに東大生ではある。大学受験という一点に絞れば、ともにうまく闘ってきた連中である。だが、もともと大学で法律を専攻し、しかも試験のために何年も勉強をしている学生が受からない一方で、理系で法学の基礎的素養さえ碌に持たない人間が、一年そこらの勉強で司法試験に合格できたという事実は、合格する勉強の第一は、正しい方向の見極めであるということを如実に示している。理系の彼が特別頭がよかったのだ、というような総括を人は好むが、それでは問題の本質は見えてこないのである。(132~133頁)
4 まとめ
問題は人為的に作成されるものである。
それゆえ、問題には一定の意図がある。
この事実を前提に勉強の方向性が示されている。
本書を読んですぐに学力が向上することはないかもしれないが、最低限、受験勉強の大局を誤ることはなくなるだろう。
何より、本書は、人間の知覚、認識構造について再考する契機を与えてくれる。
人間は合理的に生きようとしても不可避的に不合理な振る舞いをしてしまうことが、試験問題というフィルターを通して示されている。
本書は、受験対策を抜きにしても、純粋に読み物として面白い。