おすすめ ★★
近代ゴリラレベル ★★★
1 はじめに
2 本書の弱点
3 偶然と必然
4 おわりに
1 はじめに
『銃・病原菌・鉄』の感想文など「今さら感」満載である。
しかし、友人から同書の感想を求められていた(半年が経過)ので、まとわりつく「今さら感」を振りほどきつつ、感想文を記すこととする。
本書は、現代世界における人類社会間の不均衡に目を向け、「人類はなぜ現在の在り方なのか」という疑問を探求する。
この問題設定は非常に興味深い。
また、問題探求の方法も野心的である。
単一の学問的知見に拘泥することなく、隣接学問を動員して問題に切り込んでいく試みがなされている。
2 本書の弱点
(1)少しくたびれる
本書は、上下巻であり、文字の密度もそれなりに濃く、固有名詞が次々と出てくるため、読むのに少々くたびれる。
一文一文を読むと大変なので、読み飛ばしてしまった箇所も多い。
そのため、私は、感想文を記す資格を欠いているかもしれない。
(2)結論は固定されている
上記の問題設定からも明らかなように、「現在の人類の在り方」という動かしがたい結論が存在している。
いかなる論証も上記結論に収束させるという絶対的な制約がある。
そのため、厳密な考証は不可能であり、中にはこじつけにも思える箇所が散見される。
もっとも、考証を進めた上で解消されない疑問は、可能性を提示するにとどめている良心も垣間見える。
この点からすると、根拠なく自らの仮説を断定的に論じる下品な本とは一線を画すると言って良いだろう。
3 偶然と必然
本書の著者は、「人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、地理的偶然、生態的偶然のたまものにすぎない」と結論づける。
客観的条件が人間の行動を規定するという訳である。
もっとも、これは、同一条件が再現されれば、同一の結論が導かれることを意味するのではないか。
このように考えると、著者が偶然と形容するものは、本当に偶然と言えるのか。
もはや必然ではないか。
恐らく、哲学上の論点としては、上述の素朴な疑問をより精緻化させた議論がなされていることであろう(私は寡聞にして把握していない)。
しかし、今回の私の疑問は、哲学問題への志向ではなく、偶然と必然という語感への個人的な「ひっかかり」に過ぎない。
単に、思考リソースを浪費しているだけである。
4 おわりに
本書の立場が正解か否かは私にも分からない。
ただ、問題設定及び諸分野の知見を総動員してゲリラ的に真相に肉薄しようという姿勢は刺激的であることに疑いはない。