おすすめ ★★★
近代ゴリラレベル ★★★
1 モデル
2 三島文学で好きな点
3 敗北
1 モデル
本作は、光クラブ事件をモデルにしている。
そのため、主人公のモデルは言うまでもなく、東大生社長山崎晃嗣である。
彼は光クラブの経営が成り立たなくなった時点で青酸カリをあおって自決した。
彼の特徴を一言で表現するならば、ロジカルモンスターである。
具体的なエピソードを挙げると、スケジュールを極端に細分化し表にした上で、それぞれを事後的に評価していたこと(性交や自慰についても!)、刑事裁判における量刑を機械的に算出できるようなシステムを構築しようとしたこと(未完に終わる)などがある。
もっとも、彼は正真正銘のロジカルモンスターではない。
彼は、情緒的な脆さ、青臭さを持っており、その特徴が彼の怪しげな魅力につながっているのかもしれない。
延いては、その特徴が彼を劇的な最期に導いたとすら言える。
2 三島文学で好きな点
私は、三島文学のうち、風景や現象を精巧に描写する側面はあまり好きではない。
私が好きなのは、自省の暴走や観念的な会話である。
現実では三島文学で繰り広げられるような自省や会話な存在しないと思いつつも、作品の中ではその存在が自然に思えてしまうのは、作品の完成度の高さを示すと言えるだろう。
3 敗北
「事実は小説より奇なり」という使い古された格言がある。
本作はまさにこの格言が当てはまる。
つまり、三島由紀夫が小説で描いた山崎像よりも現実の山崎の方がより怪しげな魅力を放っているように思えるのである。
上記第2項の通り、私は、三島文学のうち、自省の暴走や観念的な会話の部分に惹かれる。
山崎晃嗣をモデルとする以上、自省の暴走や観念的な会話は不可避である。
そのため、私が好む三島文学が仕上がるための素材は揃っていた。
それにも関わらず、三島由紀夫は山崎を描ききれなかった。
私としては三島は山崎に敗北したと思う訳である。