フィクションとしての裁判 臨床法学講義
大野正男、大岡昇平 著
1979年
1 概要
弁護士である大野正男氏と小説家である大岡昇平氏の対談本である。
前半の3分の1程度は、主に大岡昇平氏の法廷小説『事件』を題材にして対談が進む。
後半は、大野氏が担当した事件を引き合いに出しつつ、事実認定、誤判の原因、陪審などについて対談が展開される。
2 コメント
(1)
古本屋でたまたま目に入ったため、購入し、読んでみた一冊である。
大岡昇平氏は著名な小説家である。
本書は、約40年前の書籍であり、当時の裁判、司法制度に対する問題意識を知ることができる。
また、現在まで通底する問題や正義、自然法などの概念に関する普遍的な問題も扱われている。
(2)
本書は、対談として上手くかみ合っている。
大岡氏は、小説執筆の際に、知識を仕入れているため、専門家である大野氏から上手く発言を引き出している印象を受ける。
また、大岡氏が本対談に臨む態度も好印象である。
著名な小説家であるからといって尊大になるこもなく、かつ、法律の専門外であるからといって卑下をすることもない。
一方、大野氏については、法律実務家であるものの、どこか文士としての風格が漂っている。
良い意味で教養主義的な青臭さを保持しているのである。
思想的側面は措くとして、こうしたクセのある人物には興味をそそられる深みがある。
対話者の相乗効果により、興味深い対談が生み出されているのである。
備忘
(頁)
29 まず裁判官を含む一般人の予断と戦う必要がある。
73 最も都合のいいことを言うことが最善とは限らない。
全然通らないことを言うと他のことも信用されないという面もある。
77~78 弁護人としてひとつの頭で考えると同時に、裁判官ならどう考えるかということをもうひとつの頭で考える。
訴訟はモノローグではなく、ダイアローグなのである。