知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法
仲正昌樹著
大和書房
2008年
1 概要
我々は、何も信じられない世界=究極的には、絶対な正しさを有する知識など存在しない世界に生きている。
このような世界に生きる以上、「絶対的な知」を措定し、それを拠り所にすること、知識に縛られることで視野偏狭にになるおそれがある。
本書は、このような世界を行く抜くために自分で考えるための道具を提供しようと試みる基礎教養についての本、あるいは「入門への入門」書である(3頁「はじめに」)。
2 コメント
本書は、「大学生がいかに学ぶか」という色彩が強い。
本書は、上記第1項の概要に記したとおり、学問的態度につい論じる入門書であり、学ぶことに特化している。
そして、頻繁に学生に毒を吐くアクの強い筆致で進める。
上述のとおり、本書は、主たる読者として大学一年生を想定しているため、あまり新鮮さはない。
一定の学問的訓練(大学学部レベル)を受けた者であれば、各章の表題からだいたい書いてある内容が推測できるだろう。
第1章
疑うことから知の方法は始まるが、「正しく疑う」ことの難しさについて
第2章
今の日本で大勢を占めている「二項対立」思考の愚について
第3章
ありきたりな言葉でなく自分の言葉をつかむための「教養」のススメ
もっとも、このような捉え方をすると、まさに本書が批判する思考停止状態になってしまうため、興味深かった点をいくつか紹介する。
専門的な文章は、文章の流れを追っていけば専門的な知識がなくとも結構理解できるものである。
専門用語のせいで理解できないというのは言い訳である場合が多い(169頁)。
その場で、即答できなくとも、一定の手順を経て「答え」にたどり着けることが重要である(182頁)。
このことから敷衍して、他分野から知識を借りる場合には、借りる知識と自分で考えることの切り分けでできている必要がある(183頁)。
そして、本書は、以下のとおり総括する。
最後に、「教養」において最も大事なことは何かについて私なりの考えを示して締めくくることにしましょう。それは、「『今の私には分からない問題』に直面してしまった時に、どうすべきか」を心得ているということです。もっと簡単に言うと、自分の無知、知的弱点をどう克服していくべきかを知っているということです(193頁)。