61人が書き残す 政治家 橋本龍太郎
文藝春秋企画出版部
2012年
1 概要
書名のとおり、橋本龍太郎元首相にゆかりのあった61人の人物が、氏の業績や人柄を回想する寄稿から構成されている。
2 コメント
私が本書を手にとった目的は、橋本龍太郎元首相の人となりを知ることであった。
しかし、本書の内容の多くが、橋本元首相の個人的な話ではなく、政策の話で構成されている。
この点は、最後の寄稿が「政策好きの政局嫌い」というタイトルであることに象徴されている。
つまり、「61人が書き残す」のは、単なる思い出話ではなく、橋本元首相との政策における関わりの逸話なのである。
章立ても「厚生」、「行政改革」、「財政・金融・通商」、「外交・防衛」、「環境」と政策ごとに並べられている。
政治の最前線で時代を見てきた「生き証人」の回想からは、歴史の生々しい息吹が聞こえるようである。
仕事好きで負けず嫌い。ひとつ新しい仕事に入ると徹底的に集中して役人以上に詳しくなる。(43頁)
そのメンバーの中でずば抜けて記憶力がよくて論旨明快で、こちらの言うことを正しく理解する高い能力を持っていたのが橋本さんでした。当時としては、あれほどはっきりものを言う政治家は珍しく、敵も多かったでしょうが、私も同じようなところがあったので気が合って、お付き合いが始まりました。(111頁)
俺は二十六歳で国会議員になった時から子分を作って親分になる考えを捨てている。・・・そこで俺は同期の中で誰にも負けぬ政策通になろうと心に決めたんだ。(123頁)
・・・ご説明に伺ったが、大抵はずっと黙って聞いている。ところが、ここぞというポイントになると、名刺ほどの紙にさらっとメモをとって、胸元のポケットにしまわれる。これだけだった。これだけで、改革のツボをピタリと押さえた。(130頁)
「あらゆる圧力に屈せず学者の良心にかけてこれが良いと思われる原案を作成してほしい」(161頁)
橋本さんは怒りっぽいと言われていた。確かにそうかもしれない。しかし、怒りながらも、どこに出口があるかをいつも考えておられた。(210頁)
その明晰な論理と的確な言葉に、「言葉」を大切にする政治家の本領を見る思いがして息を呑みました。(224頁)
一歩外に出れば、常に誰かに見られている。・・・自らが主役でありながら自身を実に客観的に捉え、効果的にその瞬間を演出できる、カメラの目を持った政治家だった。(236頁)
・・・政治に対しても、身を一歩引いて客体化してとらえ、「理」をもって接していた。「情に溺れずに判断していた」と言いたいところだが、「情」の方もあり過ぎた。(251頁)
「田中さん、良い仕事をさせてくれてありがとう」(267頁)
・・・力の源泉は、日本史にせよ世界史にせよ、歴史についての知識の深さではなかったか。まるでページをなめるがごとくの速読、大陸間飛行ならその間に数冊はこなしてしまわれる姿を何度も機内で拝見した。(306頁)
「読書」がとてもお好きであった。世界の歴史、各国の歴史、日本の歴史、芸術、文学など多方面の本を読まれていた。幅広い知識・見識を身につけることが政治家の必須の条件であると固く信じておられた。(329頁)