堀田善衛著
昭和58年
1 概要
小説家、評論家である堀田善衛氏による美術エッセイである。
冒頭70頁で絵画等のカラー写真が掲載されており、これらを軸として美術エッセイが展開される。
2 コメント
本書は、非専門家による美術エッセイである。
イメージとしては、語弊を恐れずに表現すると、アマチュア的楽しみ方の頂点といえる。
美術鑑賞の型などなく、対象となる作品の置かれている空間も含め、各々が好きに感じ取れば良いというスタンスで解説がなされている。
著者は、作品の意図や制作の背景に思いを巡らせ、柔軟な発想で表現をする。
この絵で、ヴェラスケス自身であるこの画家は、いったい何を見ているのか。それはわれわれには見えないモデルたちである、という返答がかえって来るであろう。しかし、この絵の鑑賞者であるわれわれは何を見ているのか。いや、われわれは果たして見ているのであろうか。われわれは、見ているのではなくて、むしろ画家に見られているといった方が正確ではなかろうか。(164頁)
なお、「アマチュア的楽しみ方」などと無防備に述べたが、著者の宗教、美術史、歴史に対する造詣の深さはかなりのものである。
そのため、何らの知識なく著者と同じ美術鑑賞の楽しみ方はできないだろう。
いずれにしても、本書が、自由な美術鑑賞の一つの在り方として、魅力を放っていることに疑いはない。