近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる

ANGE  知識の「幅」が最強の武器になる
デイビッド・エプスタイン著
中室牧子解説
東方雅美訳
日経BP

2020年

 

RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる

 

 

1  概要
 原題にあるとおり、「専門化した社会において、なぜゼネラリストが活躍できるのか」という逆説を扱う。
 タイガーウッズとロジャーフェデラーの対比をつかみとして、様々な事例を紹介しつつ同逆説を論じる。

 

 


2  コメント

(1) 副題について
 副題である『「知識」の幅が最強の武器になる』は、本書の内容を正確に反映していないと思われる。
 本書は、知識というよりは、思考、視点、学習法などを広く扱う。

 例えば、学習法については、以下の記載がある。

 ・・・「過剰修正効果(hypercorrection effect)」だ。それは、学習者の答えが間違っていて、その人がその答えに自信を持っていればいるほど、正しい答えを学ぶとそれが強く記憶に残るということだ。大きな誤りに耐えることが、最高の学習機会となる。122頁
 


 また、問題に対する思考態様については繰り返し強調されている。

化学者でも物理学者でも政治学者でも、最も優れた問題解決者は、まず、どんなタイプの問題かを解明するために頭を絞り、次にその問題に適した戦略を適用する。暗記した戦略をすぐに適用しようとはしない。135頁

 

知識の構造がとても柔軟で、新しい領域や全く新しい状況にその知識を効果的に適用できる時、そうした適用を「遠い移転(far transfer)」と呼ぶ。
・・・その思考方法は幅(レンジ)の広い思考の一つで、誰も十分には活用できていない。138頁

 
 同様の内容が別の箇所でも強調されている。

「優れた問題解決者は、問題の根底にある構造を見抜く能力に優れており、そのあとで、それに適した戦略を適用する」というものだ。
一方で、問題解決に劣る者は、・・・表面的であからさまな特徴だけで問題を分類する。
科学者たちは、問題解決で特に高い実績を上げる人は、「まず問題の分類から始める」と分析した。161頁


 さらに、思考の罠やクリエーターの本質についても言及されている。

 
・・・人は自然に「自分の側」に合う理屈をたくさん思いつく。
自分の考えが間違っている理由をネットで探そうとはしない。
それは、自分の反対の考えを思いつけないからではなく、本能的にそうしないのだ。313頁


・・・クリエーターは「ある分野では一般的なアイデアを別の分野に持っていく。すると、それが突然、発明があったように見られる」。
人の創造力は、基本的に「アイデアの輸出入ビジネス」であると彼は言う。385頁


(2) 留意点
 構成要素が限定されているような「親切な環境」については、選択と集中が効果をあげる。
 一方で、構成要素が複雑な「意地悪な環境」については、より広い視野、思考で臨まないと成功しない。
 以上を本書が前提とする大きな枠組みとして把握する必要がある。

 また、本書のタイトルから想起するイメージとして注意すべきなのは、専門知識自体が否定される訳ではない。
 特定の専門知識のみで解決困難な問題に直面した際に、当該専門知識のみで問題を解決することに固執する狭窄さを否定しているのである。