父として考える
東浩紀・宮台真司著
NHK出版生活人新書
2010年
社会学者の宮台真司教授と評論家の東浩紀氏による父をテーマとした対談本である。
この2人の対談本である時点で、典型的な子育て指南書になっていないことが頭をよぎるだろう。
早くも前書きでこの予感は裏書されることとなる。
本書は『父として考える』と題されている。
このタイトルから、読者はいわゆる「育児本」を期待するかもしれない。
しかし本書は残念ながら育児体験を語った本ではない。(6頁)
話題は、親子のコミュニケーションからはじまり、子育て環境=社会、教育、民主主義と次第に構造的問題へ進み、抽象度が高まっていく。
親子の視点からの脱線は既定路線であるものの、そんな中でも、時折、理屈を超えた親として素朴な感情が発露されるのが興味深い。
娘の幸せのためにはやはり名門私立に入れるべきではないかとか、習い事をさせるべきではないかとか、いろいろ考えていました。
しかしいまは、毎日娘の楽しそうな顔を見て、その種の「邪念」がすっかり消え去っている。格差社会云々の抽象的懸念よりも、娘が近所の幼なじみとできるだけ長く楽しく暮らせたほうがいいという素朴な願いのほうが、よほど強くなっている。(233頁)
なお、子育ての心得に焦点を当てた宮台教授の著作として『ウンコのおじさん』がある。
タイトルにクセはあるが、子育ての本質に踏み込んだ良著であると思う。