BREATHE A LIFE IN FLOW ヒクソン・グレイシー自伝
ピーター・マグワイア構成
棚橋志行訳
令和4年
1 概要
邦題の通り、ヒクソン・グレイシーの自伝である。
これまでのヒクソンに関する書籍の比較すると、通史が一通り記載されているのは、本書のみであると思われる。
2 感想
本書は、300頁程度で通史を記述するため、個々のエピソードにはそれほど紙幅を割いていない。
そのため、個々のエピソードについては、他書の方が詳しい場合がある。
戦いは芸術であると同時に科学でもあるからだ。創造性や情熱や本能が必要だから芸術なのであり、技術やタイミング、強さや持久力といった経験的側面は科学の領分だ。220頁
アームロックやチョークを教えられる柔術の先生はたくさんいるが、私はもっと全体的、多角的な教え方に取り組んでいる。私の柔術を学ぶには、目には見えない感覚を磨く必要がある。この触覚の知識、その基本的な習熟がなければ、世界のあらゆる技術を学んだところで柔術の本質はわからない。280頁
上述のとおり、本書はヒクソンの通史であり、これまでの書籍では紹介されてなかったエピソードも含まれている。
その中でも、私が最も興味深かったのは、ヒクソンが、現在の年齢に至った上での心境を吐露している部分である。
当然のことながら、これまでの書籍にはない特色である。
しかし、みずから老化のプロセスを経たおかげで気がついたのだ。グレイシー柔術はもともと体格に恵まれなず、運動神経に劣る、自信を持てない初心者のために考案されたはずだ。287頁
私はいま、忍耐や希望、戦略、感情の制御、呼吸法などを教えるツールとして、柔術を活用している。どれも衝突や競争をともなわない稽古だ。289頁
形あるものは、絶え間なく変化していく。
そして、疾風に勁草を知ることとなる。