近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ(理想)
 
 国総合格、司法試験合格 → 自営。

【読書感想文】日本国憲法

日本国憲法
曽我部真裕
放送大学教育振興会
令和8年

日本国憲法 (放送大学教材 4881)

 
 京大大学院の曽我部教授による、放送大学教材である。
 「憲法の基礎理論というよりは、現実社会の問題を憲法の観点から分析することに関心をもってきた」(3頁)という曽我部教授のスタンスのとおり、本書では、現実を見据えた中立的な解説が展開されている。
 このバランス感覚は、憲法の概説書においては、意外に得がたい要素である。
 
 例えば、愛媛玉串料事件(最大判平成9年4月2日民集51巻4号1673頁)の解説においては、三好達長官の反対意見に言及した上で、次のような大局的な認識の共有を求める。
 
 
 靖国神社や各県に置かれている護国神社は、幕末以降の戦没者を祀るために設置された神社で、戦前には神社の中でも特別扱いされていた。
 
 今日では通常の神社と同様、特別扱いが禁じられるのは当然だが、他方で、政府によって戦争(その是非や意義は全くの別問題である。)に動員され国のために殉じた人々の追悼のために国が相応の対応をすべきこともまた当然である。
 
 戦後、靖国神社・護国神社に代わる追悼の枠組みを用意することができなかったことがこうした反対意見を生む背景にあることを認識しておくべきであろう。
 (92~93頁)

 

 
 憲法9条の解釈学説のまとめとしては以下の指摘がある。
 
 
 文言解釈としては、通説である「限定放棄説+完全非武装説」が最も自然であることは否定できないだろう。
 
 ただ、それによれば既に国民の間で広く定着している自衛隊の存在も否定されることになってしまう。
 
 現実との乖離を自覚しつつ、自衛隊の正統性を否定しその拡大に歯止めをかけるための批判的な視点を提供することが重要だと考えるのか、それとも、解釈論上可能な範囲で現実に即した憲法解釈を試みるのか、論者の立場が問われるといえよう。
 (259頁)

 

 
 昨今、憲法改正や憲法に関連する思想的言説に関する議論が過熱している。
 しかし、その中には、憲法学、立憲主義の基本的な理解を前提としないものも散見される。
 建設的な議論のためには、まず前提事項の共有が強く望まれる。
 本書は、そのような共通認識を形成するための優れた手引書である。

【読書感想文】心と体が整う最強のファスティング

シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング
デイヴ・アスプリー
CCCメディアハウス
令和4年

シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング

 
 本書は、食事に関するファスティングを主軸としながらも、ドーパミンファスティング(354頁)、使用する言葉に関するファスティング(383頁)など、食事以外の領域にもアプローチしている点に意外性があり、興味深かった。
 これらは、是非とも実践したいところである(なお、この言い回しは、上記「使用する言葉に関するファスティング」では曖昧な言葉であるとしてアウトとなる)。
 
 また、本書の主題からは離れた部分にも生活上のヒントが散見された。
 
 
 体が同じやり方を好むのは、変わらない世界を生きていくほうがやるべき仕事が少なくてすむからだ。
 問題なのは、仕事が減ると、体が怠けてしまうこと。
 世界が不変でないというシグナルを送れば、体はそこでうまくやるために自分自身を作り変えるだろう。
 (124頁)

 

【読書感想文】インテリジェンスの基礎理論

インテリジェンスの基礎理論
小林良樹
講談社学術文庫
令和7年

インテリジェンスの基礎理論 (講談社学術文庫)

 
 同著者の『なぜ、インテリジェンスは必要なのか』のダイジェスト版とも言える本である。
 
 本書は、令和7年の刊行と新しく、文庫で手軽に入手できるため、日本人の著者によるインテリジェンスの入門書を求める際に、多くの読者にとって有力な選択肢となることが見込まれる。
 
 ここでは、前掲書の読書感想文でとりあげなかった部分を紹介したい。
 
 
 日本における制度の在り方を検討する際にも、単純に他国の制度の在り方のみを理由として解答を出すことは妥当ではなく、(他国の制度は参考にしつつも)日本自身の独自の政治、社会、歴史状況等を踏まえつつ具体的かつ実質的に検討されるべきと考えられる。
 (67頁)

 

 
 また、優れたインテリジェンス・プロダクトに関してローエンタールの見解を紹介している(204~208頁)。
 概要は以下のとおりである。
  大前提:インテリジェンスの客観性の維持
  基準①:タイムリーであること
  基準②:政策決定者の注文どおりに仕立ててあること
  基準③:注文者にとって容易に理解可能であること
  基準④:「判明している事実」と「判明していない事実」、「結論を支持している要素」と「結論を支持していない要素」等が明確に示されていること
 
 これらの要素は、ビジネス文書の作成においても同様に求められる。

【読書感想文】なぜ、インテリジェンスは必要なのか

なぜ、インテリジェンスは必要なのか
小林良樹
慶應義塾大学出版会
令和3年

なぜ、インテリジェンスは必要なのか

 

なぜ、インテリジェンスは必要なのか
小林良樹
慶應義塾大学出版会
令和3年
 
 本書は、書名からは分かりづらいものの、「インテリジェンスに関する学術理論の全体像を可能な限り分かりやすく紹介する」(はしがきⅰ)概説書である。
 
 著者は、本書において「インテリジェンスの基本的な定義と機能に遡って考えること」(はしがきⅰ)を強調している。
 
 例えば、秘密工作活動の位置づけについて以下のとおり説明する。
 
 
 本書の依拠するインテリジェンスの定義づけに基づくと、インテリジェンスとは国家安全保障に関する政策決定を支援するものと解されます・・・。
 こうした立場からは、秘密工作活動は理論的にはインテリジェンスには含まれないと解されます。
 なぜならば、こうした活動は、政策部門によって既に決定された政策を執行する活動であり、政策決定を支援する機能とは本質的に異なるからです(255頁)。
 

 

 その上で、インテリジェンスの定義は普遍的なものではなく、異なる立場を取り得るため、インテリジェンスに関する議論をする場合には、あらかじめ定義に関する認識の確認をする必要性にも丁寧に言及している(256頁)。
 これは、インテリジェンスに関する議論に限らず、他の議論においても留意すべき事項であろう。
 
 
 本書で示されるインテリジェンスに関する知識には、ビジネスや実生活でも活用可能なものも多く含まれている。
 
 例えば、ある情報の信頼性を複数の情報源に基づいて検証するクロスチェックの重要性であり、その際、「反響効果」に留意すべきだとの指摘がある(222頁)。
 「反響効果」とは、「ある一つのメディアに報じられた内容が他のメディアでの引用を繰り返されるうちに、あたかも複数の情報源によって裏付けされた確度の高い内容であるかのように誤解されてしまう現象」である(173~174頁)。
 
 まさに、コタツ記事がはびこる情報空間に対処するために、私たちが身につけるべき必須の視点である。
 

 

【読書感想文】ポップス歌手の耐えられない軽さ

ポップス歌手の耐えられない軽さ
桑田佳祐
文藝春秋
令和3年

ポップス歌手の耐えられない軽さ (文春e-book)

 
 週刊文春の連載をベースとした桑田佳祐の概説的自伝の性質を帯びているエッセイである。
 一人称は「アタシ」であり、コンセプトは「頭もアソコも元気なうちに、言いたいことを言っておきたい!」(8頁)である。
 筆致は軽快である。
 軽快な筆致の中で所々に顔を出す、桑田佳祐のミュージシャンの感性が前面に出た考察が面白い。
 
 例えば、言葉とメロディの関連を、日本語を解さない外国人ミュージシャンが童謡「さくら さくら」をコピーした場合の「桜」のイメージとの乖離で例証する(182頁)。
 
 また、洋楽が日本に入る際に、雰囲気のみで付されることもある邦題(例えば「The Dark side of moon」の邦題「狂気」)によるラベリングの効能に着目した「邦題をナメるな!!」、「続・邦題をナメるな!!」も面白い(191~202頁)。
 このラベリングの観点については、音楽のみならず、社会全体にも敷衍できる。
 
 全体的に酔拳のような雰囲気の中で、唐突に繰り出されるユニークな考察を是非味わっていただきたい。

【読書感想文】やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん

桑田佳祐言の葉大全集 やっぱりただの歌詩じゃねえか、こんなもん
桑田佳祐
新潮社
平成24年

桑田佳祐言の葉大全集 やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん

 
 
 本書は、桑田佳祐のソロ名義の歌詞を集め、楽曲が作られた当時の背景を紹介し、一部の歌詞についてはコメントを付したものである。
 
 まえがきで、歌詞に対するスタンスの変遷が示される。
 メロディに対して文字数を埋めるため英単語を付け加える手法の多用から、歌全体で何を伝えるかという意識が芽生え、その後、「文として、詩として、読むに値するもの」を書くことを希求するようになった、とのことである。
 
 読者は、この認識を補助線として本書に収録された歌詞と向き合うこととなる。
 
 
 ここでは、「波乗りジョニー」に付されたコメントを紹介したい。
 
 
 実は大学生の頃から、「いつかこのタイトルで曲を作ろう」と思っていた。
 東海道線の座席に座りながら、「波乗りジョニー」っていうのは語呂もいいし、いつか作れたらいいなあ、と真剣に考えていた。
 いや妄想していたのだ。
114頁

 

 
 思い付きのアイディア(あるいはアイディアとは言えない妄想)は日々の中で頭の中に去来し、具体的な形で結実することは多くない。
 もっとも、思いつくからには、それを生成するだけのある種の熱量があるはずである。
 そして、葬られることなく残り続けた事象には、言葉では形容しがたい無意識の偏愛があるはずである。
 このような自らの感覚にはより自覚的でありたい。
 
 「俺はやっぱり、ファンタジーを司るエロ神主だ・・・」(330頁)
 上記の「波乗りジョニー」のエピソードを知った後では、このどうしようもないコメントすら何とも心強く感じてしまうのである。

【読書感想文】ヌルに帰納する物語

落合陽一×日下部民藝館 作品集 2021-2025 ヌルに帰納する物語:偏在する民藝、交錯する計算機自然
落合陽一
扶桑社
令和7年

落合陽一×日下部民藝館 作品集2021-2025 ヌルに帰納する物語:遍在する民藝、交錯する計算機自然 (扶桑社BOOKS)

 
 落合陽一氏によるデジタルとアナログ(民藝)が交錯する作品群の紹介である。
 
 私にはこれらの芸術作品の真価を理解できる素養はないが、描き出された世界観の感触だけでも十分楽しめる。
 
 デジタルとアナログが交錯するこの芸術において、未定義の「null」が、基底思想として据えられている。
 ヌルという言葉の響きは、これらの作品群が持つ異様な雰囲気とやけに合致しており、必然性すら感じられる。
 デジタルな虚無(null)でありながら、どこか生々しく温(ぬ)るい。
 この言葉や作品が内包する奇妙な心地よさと境界の曖昧さに、私はいつの間にか取り込まれていたのかもしれない。

【読書感想文】歴史学者という病

歴史学者という病
本郷和人
講談社現代新書
令和4年

歴史学者という病 (講談社現代新書)

 

 本書の帯には、「ぜんぶ、言っちゃうね」と記されている。
 そして、「ぜんぶ、言っちゃ」いそうな構えの写真が添えられている。

 これらは、あたかも暴露本のようなイメージを植え付け、このインパクトが購入動機となることもありそうである。

 

 しかし、本書の内容は、予想に反して穏当である。

 

 ・・・歴史学にロマンを持ち込むことは危険だということを強調しておきたい。

 ・・・「歴史学は人間の内面には立ち入れないし、軽々に立ち入ってはならない」

 これは・・・佐藤進一先生も述べておられた鉄則中の鉄則である。

 82~83頁

 

 また、本郷教授は、歴史学者の良心についても言及する。

 

 それでも私は歴史学者の良心を失うわけにはいかない。
 「人間の内面に踏み込まない」という厳密なルールを守っているので、信長に対して、光秀がどう思っていたかなどという感情の話は語れない。
91~92頁

 

 この指摘の射程は歴史学に限られるものではないだろう。
 ある専門家が何らかの言説を述べている際、その者が当該対象について専門家として良心を持って発言しているのか、という視点は重要である。

 

 その者は、専門の分野について、良心に反して発言しているかもしれない。
 また、その者は、当該発言対象の分野については専門家ではないのに、専門家の体で発言しているかもしれない。

 誰が、何を、どのように語っているか、常に検証する姿勢を持ちたい。


 さらに、本書では、繰り返し、「実証」の意味内容が議論の俎上に載っている印象を受ける。

 

 「実証と単純実証のあいだ」では、実証に推認を介在させることの是非が論じられている(173~175頁)。
 また、時として、「史料への疑念」という視点を持ち、大きな構造を示す必要性が論じられている(198~200頁)。

 

 歴史学における学説の合理性も、一義的でない「実証」という基準のもとで揺れ動くのだろうと思った。

【読書感想文】三流シェフ

三流シェフ
三國清三
幻冬舎文庫
令和7年

三流シェフ (幻冬舎文庫)

 

 

 本書では、三國シェフが、縁や運にも大きく左右されて名を成した過程が記されている。

 そして、縁や運は、それが必然と思える程度まで自力で引き寄せなければならないことが描かれる。

 

 

 大切なのは目の前の仕事を、誰よりもしっかりこなすこと。
 鍋でも皿でも、誰よりも手早く、誰よりも綺麗に洗う。
 洗って、洗って、洗うものがなくなったら、厨房を見回して、誰か忙しそうにしている人を手伝う。

 82頁

 

 「鍋洗いひとつとっても要領とセンスが良かった」と村上さんは自伝の中でぼくのことを書いてくださっていた。
 「ちょっとした雑用でも、シェフの仕事の段取りを見極め、いいタイミングでサポートする」
 115頁

 


 また、その時々の三國シェフの思考の到達点を表現する部分は、他分野にも示唆を与える。

 

 フランス料理だろうがなんだろうが、料理は料理なのだ。
 ・・・
 料理の基本は、どこでも一緒なのだ。
 日本にいたとき、フランス料理は遠い外国の特別な料理だった。
 ここでは、ただの料理だった。
 そしてただの料理である以上、大切なことも同じだった。
 124頁


 本書で描かれる世界は、あまりにスケールが大きく、別世界の出来事のようにも思える。
 もっとも、起点となる努力は、地味で具体的なのである。

 

 各々にとっての「鍋や皿」は何か。
 日常で忘れがちになる事柄に気づきを促す名著である。

【読書感想文】インテリジェンス人生相談 復興編

インテリジェンス人生相談 復興編
扶桑社
 

インテリジェンス人生相談 復興編 (SPA!BOOKS)

 
 佐藤優氏の人生相談シリーズの3冊目である。
 前二作の赤と黒(この配色はスタンダールを意識したらしい)は学生時代に読んだ。
 少し後に出た本書は読んでいなかった。
 
 毎度のことながら、タイトルの「インテリジェンス」はご愛嬌である。
 
 前二作と同様に、各質問ごとに1冊の参考文献を示しながら回答する体裁である。
 回答自体も面白いあるいは興味深いものが多いが、読書案内としての良さもある。
 
 人生相談シリーズは、質問への回答の中に散見される極めて具体的な指摘が特に良い。
 
 
 それと、副業していることは同僚には言わないこと。
 他人のヤキモチを考えないと。
 ・・・
 でもね、秘密の98%は自分の口から漏れるんです。
 
 173頁

 

 
 ・・・さんには、利他的に行動する訓練が必要です。
 そうでないと、ほかの人と円滑なコミュニケーションができなくなります。
 とりあえず、メダカか金魚を飼うことをお勧めします。
 
 232頁