近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】亡命者の古書店

亡命者の古書店 続・私のイギリス物語
平成30年

亡命者の古書店―続・私のイギリス物語―(新潮文庫)

 
 前作『紳士協定』では、聡明な少年であるグレンとの対話が大部分を占めていた。
未成熟な少年特有の悩みや感性が醸し出す独特の空気感が同作の特徴となっていた。
 
 一方で、本作では、対話相手が亡命チェコ人の古書店主マストニークを中心とした成熟した大人であり、前作とは異なる趣を持つ。
 対話内容は、宗教観、民族観、国家観、歴史観、延いては人間存在の本質まで及ぶ。
 
「大きな民族に属する人には、その人が善意で、誠実に小さな民族のことを理解してい  ると思っていても、どうしても理解できないところが残るのです。
こういう言語化が難しい要因が、チェコ人の独特の性格をつくるのです。」
193~194頁

 

 
 著者と関わる人間は、著者の先行きが一筋縄にはいきそうもないことを口を揃えて予測する。
 事後的に振り返ると、この予測は的中することとなる。
 
 人の運命は何によって規定されるのか。
 著者は、時代に翻弄される者との交流を描くことによって、本質的な問いを暗に投げかける。
 この問いの背後には神が据えられている。