近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】女たちのアンダーグラウンド

女たちのアンダーグラウンド 戦後横浜の光と闇
山崎洋子
亜紀書房
2019年

女たちのアンダーグラウンド――戦後横浜の光と闇

 

 本書は、主に戦後の横浜を対象として、歴史の闇の中に葬られそうになっていた不遇な女性たちに光を当てる。

 歴史を編纂する上で意識的、無意識的に捨象される不都合な事実に目を向け、人間存在の本質に迫るのである。

 

 過去の不都合な事実を禁忌とする態度を糾弾すること自体は容易である(これを具体的な行動レベルまで高めるのは容易ではない。)。
 そのような中で注意すべきなのは、禁忌の対象である歴史的事実を現在の価値観で断罪することへの誘惑である。
 人間の行動、感覚は、具体的な場によって強固に規定されることを意識する必要がある。

 

 現代の私たちがそう責めるのは簡単だ。
 が、いつだって、時代の空気というものがある。
 人はいやおうなしにそれに巻き込まれる。
・・・
 戦争にまつわる歴史を知ることは、自分の中に潜む身勝手で冷酷な「鬼」を意識することでもあると、私は思っている。
135頁

 

 

 後に目を向けることがタブー視されるほどの人間の凄惨な側面は、今後も形を変えて繰り返される可能性を秘めている。
 過去のタブーに目を向けることで、人間が潜在的に持ちうる感情を再認識できる。

 

 なお、タブーに切り込むという本書の性質上、本書の至るところで、繊細な人間心理が顔を出す。
 それらの各描写から考えさせられることは多い。

 

 公平に話しているつもりでも、私の言葉には、ついつい日本人としての立場が出てしまうようで、相手の顔色が微妙に変わることに気づかずにはいられない。
・・・
 ルーツである国に関して、非難がましいことを、彼らが自分で言う分にはいいのだが、他国の人間に言われるのはいやだ。
 それはあたりまえの感情だと思う。
223頁