経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来
宮台真司・野田智義
光文社
2022年
1 概要
「ビジネスパーソンが日頃関心を持ちづらい知の体系がいかに有意義でスリリングなものなのかを」伝える(22頁)。
基本的に、宮台氏が発言し、野田氏が補足説明や、議論を展開させるための発言をする。
くわえて、要所要所に、学生(社会人)とのディスカッションも含まれている。
2 感想
宮台氏が社会学について論じた著作群の中では、本書は、体系的、かつ、明快であり、非常に分かりやすい。
宮台氏は、理論家としては、「簡潔に言い過ぎたこと、書き足りないことがかなりある」と吐露しているが、私のような門外漢がことの本質を把握するためには、良い塩梅であったと思う。
本書は、衒学的に走らずに、現実を分析するために即効性のある学問的知見を提供している。
本書では、地元商店街的な「生活世界」とコンビニ的な「システム世界」という概念が提示される。
生活世界とシステム社会とのせめぎ合う中で、それも、前者が後者に飲み込まれていくことが不可避的である状況である中で、何ができるか。
本書の提示する提言は、「システム世界の力を借りて存在する人工的な共同体」の形成であり、「共同体自治」の確立が鍵であるとする(251頁)。
本書で提言する共同体の形成は、一定のハードルがあり、本書を読んで即座にそこに踏み込める者は、少数であると思われる。
一方で、本書で示された社会を見つめるための概念装置は万人に共通の武器となるだろう。
身近なコミュニティのあり方に変化を感じたり、より大きくは社会に変化を感じたり、今までとは異質な事件が発生した際に、単に、個人の特異性をよりどころとして処理するのではなく、その背後にある構造に目を向けることが有効である。
学問において、細分化した専門分野の深化が重要であることは間違いない。
一方で、実社会と対峙しながら、社会分析のための統一理論を志向する本書の学問的営為からは、机上の理論が現実に接合する可能性を感じることができる。
このような感想を読者に与えることが、野田氏が本書のプロローグで示した「スリリング」ということの意味であろう。