危険な思想家
2000年
1 概要
著者が「危険な思想」を提示するエッセイである。
これは、「安全な思想」が実は最も危険であるという逆説に基づいている。
自分に都合がよい時にのみ人権や民主主義を声高に主張し、敵に都合がより時には知らんぷりを決め込む。それでいて厚顔にも、人権や民主主義は普遍的・究極的な真理であると揚言するのだ。(52頁)
2 コメント
基本的な主張の方向性は呉氏の他の著作と共通する。
本書では、「危険」というキーワードが多少のスパイスになっている。
例えば、あとがきは「東京クーデター計画」というおどろおどろしい表題となっている。
もっとも、文章を読めば分かるが、ユーモアをまじえつつ「危険な思想」を提示するのは、呉氏なりの警鐘なのである。
呉氏の同様のコンセプトの作品として『ホントの話 誰も語らなかった現代社会学』がある。
本書とは微妙にトピックがずれており、人権と民主主義、ナショナリズム、民族差別、現代人の愛、教育とマスコミについて論じている。
また、同様のコンセプトでありつつも、より雑多な内容を扱った作品として、『サルの正義』がある。
同作品では、偽善的な「正義」の共同幻想を抱いている者をサルと揶揄する。
そして、「サルから人間へ!」と煽動する(まえがき16頁)。