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近代ゴリラレベル ★★★★★
1 はじめに
2 本書の野望
3 日経新聞の記事
1 概要
「空気読め」
日常会話でも頻繁に使われる表現である。
では、「空気」とは何か。
この問いに正確に回答できる者は、ほとんどいないだろう。
「空気」という言葉は定義づけされていないからである。
また、定義づけも特に必要ないからである。
曖昧な位置づけのまま使用される「空気」という概念を敢えて分析しようと試みたのが本書である。
長い間、絶版となっていたが、近年復刊された。
本書は、あたかも今日付で日本社会を分析したかのような鋭い考察が含まれている。
例えば、
…「空気」(Anima,pseuma)はその内容が一義的に明示されず、なんらの原則を有しないという意味で、組織神学的にはこれほど教義から遠いものはない。また、常に社会状況や人間関係にも依存しており、それから析出された存在になることはできませんから、この意味でもキリスト教的な教義と正反対である。ところが、構造神学的にいえば、「空気」は規範的に絶対であって所与性を持ちます。「それが空気だ!」ということになると誰も反対はできず、「空気」に逆らうことは、とんでもなく悪いことだとされる。人間は「空気」の前では、いとも弱き存在であって、どんなに「空気」に抵抗しても無駄です。(137~138頁)
本書で示された考察は、過去になされたものであるにも関わらず、今日でも通用する。
この意味で、本書は普遍的内容を示した古典であるといえる。
群衆を分析した古典として、オルテガの『大衆の反逆』やルボンの『群集心理』などが思い浮かぶ。
本書は、群集分析各論-日本編とでも言えようか。
2 本書の野望
「まえがき」で本書の野望が示されている。
山本学が十分に活用されない理由は、方法論的基礎が弱いからである。学問的にはまだ整備されていないのである。それゆえ、日本社会の本質に対する洞察のすばらしさにおいては読者を陶然とさせる山本七平氏の論述が、理論的なものにおよぶと容易に読者を寄せつけなくなってしまうのだ。これが誤解を生む。本書の目的は、この山本学を社会科学的に整備して、すぐに理解でき、誰でも使えるようにすることにある。そのために、方法論学者である小室が協力した。(まえがき)
つまり、「直感の体系化」が本書の野望である。
この野望が実現したか否かは、諸賢の目で確かめていただきたい。
3 日経新聞の記事
同記事の内容を一言で表現すると、「流行はモノよりもコトによってつくられる」である。
すなわち、「女子会」、「インスタ映え」など新しい生活文化を創り、消費を促す一連の言葉=社会記号が流行をつくるということである。
この社会記号は、まさに「空気」の概念化である。
「空気」を読み、適切な概念として切り出すことに成功すれば、ヒットが生まれるのであろう。
丁度、本書を読んでいた際に目にした、本書と関連する記事だったので、紹介した次第である。
※もっとも、厳密に言うと、本書では流行と空気は異なるとしている。
流行は無視できるものであるが、空気は無視できないという絶対的な拘束性を有すると説明する(145頁~)。