思考する格闘技
廣済社
2002年
1 概要
東大教授(本書出版時)による格闘技論である。
2 感想
本書は具体的な技術について言及する部分もあるが、大部分は格闘技の本質論の探求である。
本書は、格闘技の「理念」について、①実戦性、②競技性、③精神性、及び「現実」としての経済性という大きな柱を立てて、分析を開始する(17頁等)。
さらに、「する格闘技」と「見る格闘技」という分類の視点からはじめ、格闘技、格闘技界の構造に検討を進め、立ち技の旧K1、MMAのPRIDEの興行的成功の要因について説く。
なお、格闘技は、常に、「何が一番強いのかという観点」が通奏低音として流れており、この点に他の競技とは異なる特性がある。
第二章「わがビジネスマン空手道」は、33歳から大道塾に入門した著者によるフィールドレポート兼格闘技勧誘である。
社会人がいかに格闘技を生活に取り入れるかについての一つの形、心構えを示している。
空手を「真剣な遊び」=非日常的な領域において演じられる厳格な規則の下での遊びとし、日常の文脈がすべて括弧に入れられるとの考察を提示する(72~73頁)。
この観点を敷衍して、税務署長が真剣な面もちで掃除に取り組んでいた例を挙げ、社会的な地位やプライドをはぎ取られた現場が別の自分を発見する第一歩になると力説する(113頁)。
また、競技を実践することの意義や指導法についての指摘も的確である。
「やって初めて分かることがある。
知的に充実するのである。」(107頁)という指摘は、どの競技にも当てはまる重要なことであろう。
「現場での言葉にならない身体意識をなんとか言葉に乗せるのが教授法の進歩というものではないだろうか。」(152頁)。