現代マンガの全体像
1997年
1 概要
著者は、マンガは日本が世界に誇るべき優れた文化であることを強調する。
それにも関わらず、これまでマンガ論については不十分なものしか刊行されてこなかったことにしびれを切らし、著者は、本書を世に送り出した。
内容は以下のとおりである。
・理論(表現技法、表現構造)
・マンガ概史
・各論としての作家・作品論
2 コメント
著者のマンガに対する熱量は十分に伝わってくる。
理論、マンガ史については、原理的考察からはじまる箇所も多く、時には話題が極めてマニアックに走るため、私は読んでいて少々くだびれた。
マンガの理論、マンガ史についてこれだけの密度で論じた作品は珍しいと思える。
そのため、著者が自画自賛するようにマンガを考察する上で貴重な一冊ではある。
一方で各論としての作家・作品論は、具体的で平易であり気軽に読める。
楳図かずおが笑いを描き得るのは、人間の心理の奥に何がうごめいているかわかっているからである。それは、恐怖や怪奇を描き得ることと共通している。楳図が描くグロテスクは、人間心理のグロテスクの視覚化なのである。(229頁)
SFにしばしば描かれる異星人侵略テーマでありながら、内容は類例のないほど独創的である。諸星は、ここで、向こう側の世界の論理をその文法に沿って描いたのである。平凡なSF作品は、向こう側の世界をこちらの世界の論理によって解明しようとする。解明の完了が物語の終了である。しかし、諸星は、異界を異界のまま、怪異なるものを怪異なるもののまま描いたのである。(276頁)
マンガを読む際に、「なぜそれが面白いのか、なぜそれが秀逸なのか」という視点を持つことは重要であると思った次第である。