希望の格闘技
2014年
一つのトピックが2~3頁で簡潔する編集方針であり、語り口は軽快である。
体系的な内容ではなく、淡々と箴言を重ねるスタイルである。
脱力を理解するのが難しい者に、私は、「力を入れるべきところは思い切り入れろ。要らないところには全く入れなくていい」とアドバイスすることが多い。・・・相反する要素を使いこなし、効果的な自分のあり方を模索していく。柔術を人生に応用する試みは、まだ始まったばかりである。「力を抜く」こと 49~51頁
中井氏は、日本MMAの黎明期を切り開いてきた人物である。
格闘技を普及するという使命を持った中井氏の視点は、競技者の視点からは一段高い。
本書は、興味深い内容ではあるものの、中井氏の人生や思想の一旦が見えるに過ぎないため、若干物足りなさがある。
興味深い作品であることは間違いないが、この作品も小ぶりであるため、やはり物足りない。
同書では、中井氏が他者とは異なるヴィジョンで格闘技に取り組んでいたことが示唆されている。
「道場の真ん中で大の字になって一時間くらい動けないで天井仰いでるんだ」「・・・・・・・・・・?」「それくらい乱取りで全力を尽くしてるんだよ。一本一本の乱取りでいっさい手を抜いていないんだ。だから研究とかウエイトとかやる余力が残っていなかったんだ。俺は二百人近く選手を見てきたけど、そんな選手は中井しかいなかった」
是非とも、中井氏による完全版の自叙伝、思考体系を記述した本の出版を望む次第である。