音を視る、時を聴く [哲学講義]
1982年
1 概要
基本的に、大森教授の専門である哲学を基軸として、一方的に語りかける場面が多い。
そのため、対談というよりは、大森教授から坂本教授が哲学の講義を受けるという図式の方が近いかもしれない。
本書のタイトルも[哲学講義]となっており、シリーズ名も「LECTURE BOOK」である。
2 コメント
そして、『音を視る、時を聴く』という何とも人を食ったようなタイトルである。
自然と、期待は高まる。
しかし、私の認識からすると、本書は失敗に終わっている。
本書では、時折、坂本教授が素朴な疑問を差し挟む。
大森教授は、この坂本教授が発した素朴な疑問を深掘りするというよりは、軽くあしらって自説を展開する場面が多い。
音を議論の対象とした、本書の冒頭の4分の1程度の部分では、坂本教授の音楽家としての知見が活きており、対話が深掘りされていく。
しかし、それ以降は、基本的に、大森教授が語り続ける。
このような構成であれば、必ずしも坂本教授でなくてもよかったのではないかと思ってしまう。
いわば、坂本教授の無駄遣いである。
もっとも、坂本教授があとがきで語っているように、大森教授の他の論文に書かれていない個人的動機などを引き出したのは、お手柄であろう。