新訂 蹇蹇録-日清戦争外交秘録
1983年
1 概要
2 コメント
陸奥宗光の文体には味があるように思う。
もっとも、私が歴史の知識に疎く、かつ、この類の本をあまり読まないため、この時代の一般的な文章なのか、陸奥宗光の文才によるものなのか判断できない。
しかれども領事裁判管轄の存在する間において、我が国が竟に第三国と何らの葛藤を生ぜざるを望むは、なお大石巨礁の縦横散在する長流急湍の中に舟楫を通過する船手が、良工苦心の術を尽くすもなお万一を僥倖するに過ぎざるが如し。(187頁)
蹇蹇録は、陸奥宗光自身の著述であるところ、学究肌を感じさせる外交情勢の分析的記述が散見される。
余は既に今回の戦争中我が政府が欧米列強に対し交戦国たる権利を執行する際、領事裁判管轄権と重大の抵触を起こさざりし基因は、畢竟事実問題に属し学理上の問題に属せずといえり。しかれども後来これによって国際公法上領事裁判制度に関する疑問を解釈すべき好例を与えたるは、また一個の快事というべきなり。(198頁)
なお、解説は、本書の成立過程に関する考証を主たる内容とする。
その内容は、マニアックなので読む者を選ぶだろう。