陸奥宗光 「日本外交の祖」の生涯
佐々木雄一 著
2018年
1 概要
まさに、タイトルの通り、陸奥宗光の評伝である。
2 コメント
本書で描かれる陸奥宗光の人物像は、従来のイメージとのは異なるものであり、興味深い。
(1)一般的なイメージ
陸奥宗光の人物像は、一人歩きしている感がある。
条約改正という優れた外交的成果をあげたという歴史的事実が、人物像の想定に影響を及ぼしている。
(2)本書で描かれる実像
本書で示される陸奥の問題解決への姿勢は、より地味で堅実なものである。
ア 徹底的な事前準備、学究肌
「剃刀外交」のイメージからは、即断即決で物事をさばいていった様が想定される。
しかし、実際の陸奥は、問題解決にあたって徹底的な事前準備をしたそうである。
そして、この事前準備を徹底する姿勢については、陸奥が学究肌であったこととよくなじむ。
獄中では、膨大な読書をし、妻に対して、「・・・毎朝八時ごろより夜は十二時頃つとめて書物などをけみし、1日もおこたりたることなし」と記した手紙を送っている(もっとも、著者が、さすがに「1日もおこたりたることなし」ではなかっただろうとさり気なくツッコミを入れているのが面白い。)(96頁)。
陸奥から野心と覇気を除けば詩人・文学者に近いかもしれないなどと評されている(まえがきⅴ)
また、息子広吉が、陸奥は読書を大いに好み、かつ、読書はあくまで政治研鑽の目的がはっきりしてたこと、必ずしも鋭利な刀があったわけではないが、諸事に用意周到であるために、粗心策腕家のできないことを成し遂げたと分析している(274頁)。
イ 対内的な利害調整能力
また、陸奥は外交で果たした役割についても、対外的な華々しさというよりは、対内的な利害調整を主としていた。
条約改正事業が何度も頓挫してきた原因が日本国内にあったことを見抜いていた陸奥は、国内の批判を封じることに腐心したのである(195頁)。