近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】東大法学部首席・司法試験首席・国家公務員試験首席の天才

『藤木英雄人と学問』藤木英雄教授追悼文集刊行会編 弘文堂, 1979

おすすめ ★★★★★
近代ゴリラレベル ∞
 
 
1 はじめに
2 藤木英雄博士とは
3 本書の内容、意義
4 名文
5 おわりに
 
 
 
 
1 はじめに
 本書は、私の座右の書である。
 問答無用の名著である。
 
 
2 藤木英雄博士とは  
 「結局のところ、日本の歴史上最も頭の良かった法学者は誰なのか」的な疑問が呈された際に、必ず挙がる名前がある。
 夭折の刑法学者、藤木英雄博士である。
 藤木博士はトリプルクラウン三冠王)の称号の持ち主である*1
 トリプルクラウン」とは、「東大法学部首席、司法試験首席、国家公務員試験主席」を指すらしい。
 
 藤木博士は、 団藤重光博士をして、「頭の回転の早いのには驚くべきものがあった」と言わしめ*2平野龍一博士をして、「人よりも十年早くしかも人の数倍の業績をあげ」たと言わしめた*3
 
 
3 本書の内容、意義
 本書は、藤木英雄博士の追悼文集である。
 藤木博士に所縁のあった方々が寄稿している。
 
 本書で様々な場面の藤木博士が語られることで、人物像が立体的に見えてくる。
 その人物像とは、群抜きの優秀な頭脳を持ちながら、市民のための法学を志向し、真のノブレスオブリージュを体現する人格者である。
 
 まさに、そこに「最強」が現れるのである。
 文科系の「最強」を提示する本書は貴重であり、自己啓発本13冊分の破壊力があると思う。
 当然、この13冊という冊数は、実証的根拠を欠いた恣意的な算定に基づく。
 
 本書に収録された魅力的な逸話は枚挙に暇が無い。
 これについては各々が本書を手にとって確認されたい。
 
 
4 名文
 本書に収録されている文集は、学術論文ではなく、随筆である。
 本書では、言葉を命としてしのぎを削る一流の法律家の文章を堪能することができる。
 法学者、法曹実務家がジャーゴンという武装を解除をした時に残るのは、情念的な名文なのである。
 私は、特に、三ヶ月章博士の名文に唸った。
…確かに藤木君は若くして死んだ。
 私と彼とは、今日を基準として計っても私の方が一〇年余長く生きてはいる。
 しかしふり返ってみて、この不条理の充満する人生の中で、一〇年という年の長さなどは何と小っぽけなものであることか、ということを、私は藤木君に向かって、もう一度大声で叫びかけたい衝動に今でも駆られるのである。(本書228頁)

 なお、三ヶ月博士の著作である『法学入門』を今後紹介したいと考えている。

 
5 おわりに 
 稀代の天才法学者を素描した本書は、冒頭でも述べた通り、問答無用の名著である。
 しかし、本書は、非売品として発表されたことから、現在、入手困難となっている。
 私は、版元に問い合わせをしたが、再刊は性質上困難であるとの返答を受けた。
 私としては、本書が入手困難となっている現状を嘆く。
 一方で、支離滅裂で恐縮だが、かなり苦労して本書を入手した身としては、本書が簡単に復刊してしまうことに空しさが伴うことは否定できない。
 最終的な結論としては、本書が復刊する空しさと本書がより多くの読者を獲得することの喜びとの比較すると、後者は前者を上回るのである。

 

*1:本書269頁、275頁参照

*2:本書2頁

*3:253頁