子どもに語る前に 大人のための性教育
岡崎勝 宮台真司
ジャパンマシニスト社
2022年
1 概要
小学校教員である岡崎氏と社会学者である宮台氏の性愛に関する対談である。
2 感想
ポップな表紙に油断するものの、内容は思った以上に理屈っぽい(これはマイナス評価ではない。)。
「黒光りした戦闘状態」といったいわゆる「宮台語」も炸裂する。
宮台氏による性愛に関する本という時点で、ある程度予測できた内容ではある。
本書で扱う内容は、「性教育」と聞いて想起する一般的なイメージを超えている。
性愛の原理論まで踏み込み抽象度を高めたかと思えば、やけに具体的で生々しい説示も飛び出す。
形而上と形而下が結合し、両者を行き来する。
人類学や民俗学をベースにいえば、言葉・法・損得に支配されて「社会」と、言外・法外・損得外のシンクロが優位する「性愛」は別の時空です(26頁)。
人類学でいえば、「社会」を支えるのは「交換」で、「性愛」を支えるのは「贈与」です。交換がほどよいとすれば、贈与は「過剰」です(29頁)。
・・・「性交」の最中に、ときどき相手の手を握ることも大切です。女の多くは手を握ってもらうと、安心してディフェンスモードが弱くなり、「同じ世界」に入って「一つのアメーバ」になりやすくなります。
本書を読むと、かつては、「ナンパサイボーグ」であったことを自認する宮台氏が、一人の相手と深く関係性を築く方向に完全にシフトしたことが分かる。
他の著作で、宮台氏は、このことを「バニラになる」と表現していた。
バニラになることは、性愛の刺激からの退却ではなく、より深い変性意識状態への誘いであるかもしれないと考えさせられる。