近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】帝国の死角

高木彬光長編推理小説全集16『帝国の死角』

光文社

1973年

 

帝国の死角 (高木彬光長編推理小説全集〈16〉)

 
おすすめ ★★★★★
近代ゴリラレベル ★★★★
 
1 概要
 本作品は、二部構成の高木彬光氏の長編推理小説である。
 第一部「天皇の密使」は先の大戦において、スイス銀行にある天皇陛下の秘密預金により物資を調達するためにヨーロッパに派遣された海軍大佐(後に少将となる。)鈴木高徳が残した文書「S文書」が示される。
 鈴木少将は、敗戦後、天皇陛下の秘密預金を守るために、敢えて当該預金を自己名義にした上で、自決する。
 
 第二部「神々の黄昏」は、第一部から20年後の設定である。
 鈴木少将の子である鈴木二郎が主役となる。
 第一部で示唆された秘密預金が影をつらつかせつつ、新興宗教も絡み、いくつかの殺人事件が発生する。
 
 
2 コメント
 本書は推理小説である。
 ネタバレは厳禁であるため、コメントは抽象的に記す。
 
 私は、これまで、高木彬光氏の作品として、『白昼の死角』、『人蟻』、『破戒裁判』、『わが一高時代の犯罪』を読んだ。
 そして、『白昼の死角』のあまりの完成度の高さに、残りの作品を読むまでもなく、同作品が高木彬光氏の最高傑作であると断定していた。
 
 今回、『帝国の死角』を読んだ。
 個々の事件の描写、登場人物の魅力・思考、人間心理の扱いなどの点については、やはり、『白昼の死角』が秀でていると感じた。
 
 しかし、伏線回収=ミステリーの醍醐味については、本作は別次元であった。
 この一点においては、本作は『白昼の死角』を遙かに上回る。
 私は、本作における高木氏の策略に完全にはまった。
 
 是非とも本作の伏線回収に打ちのめされていただきたい。
 間違っても「第一部を読んで終わり」ということはしないように強調するものである。
 第一部はそれ自体でも一応完成しており、先の大戦中のヨーロッパを舞台とした歴史、スパイ小説として読んで十分に満足できる仕上がりである。
 ただし、これは罠だ。
 第一部の完成度の高ささえも第二部につながる伏線に過ぎないのである。
 
 多少筆が滑り始めているので、この辺で強制終了する。