バカにつける薬
1996年
第1 概要
タイトルからも察しがつくとおり、本書は、無理解な者を徹底的に批判することを主題とするエッセイ集である。
批判の対象は、評論家はもちろんのこと、一般読者にまで及ぶ。
第一章「折々のバカ」、第二章「バカを撃つ」はまさに、タイトル通りの内容であり、第三章以降は少し平和になる。
本書はこういうバカにつける薬である。この薬の効用は、バカにつけるとバカが治るということである。その薬効の仕組みは、体内に潜むバカ菌を殺すというものである。副作用は全くないが、既に全身がバカ菌で置き換えられるほど重症になっている場合は、患者そのものが死に至ることがある。使用時は、十分なる注意を払われたい。(まえがき「『バカにつける薬』効能書」)*1
第2 コメント
1 総論
概要に記したとおり、本書では好戦的な批判精神が全面に押し出されている。
ゴルゴ13を巡って一般読者に論争を仕掛けるくだりに至っては少しやり過ぎで、もはや単なる口げんかになっている感もある。
ただし、呉氏は、基本的には、勢いだけで批判をするのではなく、敵を知り、分析した上での適切な批判を試みている。
例えば、デモにおける主催者側発表の水増し、警察側発表の切り捨てを第三者的な視点から指摘する(132頁)。
2 第三章
第三章「晴読雨読」以降は少し平和になる。
(1)読書日記
「読書日録」は特に平和である。
著者の読書生活が日記の体裁でつづられている。
もっとも、夏目漱石『それから』を例に、古典は広く読まれていながら、実はほとんど正しく理解されていないなどと多少の毒を吐くことは忘れていない(174頁)。
(2)闘う書評
「闘う書評」では、第一章、第二章ほどではないにせよ再び好戦的姿勢に戻る。
(3)実用品としての書斎
分量は少ないものの、「実用品としての書斎」(219~223頁)が著者の態度をよく表していて興味深かった。
①不要の本は古本屋に売る。
不要かどうかの基準は再読の可能性の有無である。
不要本を飾ることで人間の品性が卑しくなる。
②文庫本・新書本を愛用する。
3 民主社長
最後に、本書で最も異彩を放っているのは、第五章「セミドキュメント民主社長の肖像」である。
呉氏は民主主義批判の論者であり、その同氏があえて「民主社長」などと表現していることから、同社長のスタンスがうかがいしれる。
もっとも、民主社長は一筋縄にはいかない。
確かに、考えの浅さなど「穴」は多いように見える。
しかし、そのような穴をものともせず、圧倒的な豪快さを持っており、呉氏も少し押され気味なのが面白い。
*1:7頁