近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】ザ・ゲーム 4イヤーズ

ザ・ゲーム 4イヤーズ
ニール・ストラウス著
永井二菜訳
パンローリング
 
THE TRUTH: An Uncomfortable Book About Relationships
by Neil Strauss
 

ザ・ゲーム ──4イヤーズ

 
 
1 概要
 帯にも記載されているように、著者が、ポリアモリー、ハーレム、スワッピングなど新しい恋愛スタイルを求めて試行錯誤する。
 
 
2 コメント
 ニール・ストラウスは、『The game』の著者である。
 pick upという活動に一定程度深く関わった全ての人間は、直接的、あるいは、間接的に同書の影響を受けていると言っても過言ではないだろう。
 
 『The game』は、俗っぽく類型化するのであれば、ナンパバイブルとでもいえようが、凡百のコミュニケーション本では到達できない人間心理の本質が素描されており、大変に興味深い。
 
 ナンパの動機づけを欠く者が手に取っても、得るものは多いだろう。
 こちらも機会があれば紹介したいが、書くべきことが多すぎて恐らく紹介できないだろう。
 
 
 さて、『The game』においては、まさに著者がPUA(pick-up artist=ナンパ師(若干ニュアンスは異なるが))として成り上がる様が描かれていた。
 
 一方は、本書は、PUAのその後を描く作品である。
 
 なお、『The game』の最後で結ばれたLisaという女性ではない。
 この女性とは行き違いがあり、別れたことが示されている(このさりげない事実により、『The game』の価値は多少減殺される。)。
 
 不特定多数の女性にアプローチする術を身につけ、その試行錯誤の中で、一人の女性を見つけた著者が、一人の女性との確固たる関係性を構築することに苦悶する。
 
 セックス依存症として施設に入れられるところから、模索がはじまるのである。
 
 本書は、一人の相手と関係を継続させるためには、いかにすべきかをテーマとする。
 試行錯誤といえば、聞こえはいいが、時として、人間の醜悪、エゴが顔を出したり、制御不能な情動の奴隷になったりと生々しい体験が綴られている。
 また、自らの両親の歪んだ思考、そして、自らの両親と自分との歪んだ関係など、人間が怪物に見える狂気の瞬間が所々で切り取られている。
 
 この人間の混沌とした心情を描ききる著者の筆力はさすがである。
 
 遺伝子や生物学的なレベルから人間が不特定多数の相手と関係を持とうとすることは必然かもしれない。
 
 しかし、人間には、感情がある。
 
 上記メカニズムを頭では理解していても、現に、パートナーが他の異性と寝ていた場合にそれを理論をもとに正当化できるのか?
 
 多くの異なる文化圏で、婚姻を一対一の関係として、他の異性との情交に制裁を課していることは、人間が社会を形成していく中で獲得した知恵なのではないか?
 
 自らの異性関係を自由にしてくれる相手を探しつつも、当該パートナーが自由な異性関係を楽しむことを割り切ることができないという著者の矛盾、葛藤が描かれている。
 
 
 
 最終的には、最初の女性こそが自分に必要な女性であるという結論に至り、幕を閉じる。
 この結論自体は予定調和的であり、冒頭から色濃く匂っていたが、そこはご愛嬌であろう。
 
 
 
 
 
 それにしても、信頼とは脆弱なものである。
 信頼は、人間関係の中で形成される相対的なものであり、日々変動する。
 例えば、日常における、ちょっとした嘘などで決定的に欠損することもある。
 
 この信頼の脆弱性を前提に、「お互い様」の状況を人工的に作出することで男女関係の不都合性を超越しようとするのが、スワッピング等なのだろう。
 しかし、「お互い様」の状況は心理的に負荷がかかる。
 
 最終的には、最も不自由な状態が最も自由であるというのが著者の結論である。
 これは、多くの者が至る常識的な結論である。
 
 ただし、単に、結論の上澄みをすくって迎合していることと、地を這うような試行錯誤の末に結論を得たこととでは、自らに与えられた可能性の確信という点で雲泥の差があるだろう。