地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団
森功
講談社文庫
令和4年
本書では、積水ハウスが被害者となった事件をはじめ、複数の有名地面師詐欺事件が紹介されている。
地面師詐欺は、詐欺の大枠は大胆であるものの、細部の手口は極めて精巧である。
例えば、特筆すべき以下の指摘がある。
ただ、事件に遭遇し、いろいろ聞いて回ると、最近の地面師たちは不動産取引に必要な書類を偽造するというより、同じ物をつくれるらしい。
たとえば印影さえあれば、3Dプリンターを使って実印を作り、本物と見分けがつかないほど精巧な書類を偽造する。
見破りようがないケースも少なくありません。130頁
つまり、偽造文書そのものから不正を見抜くことは困難な場合があるということである。
一方で、本書で紹介されている複数の事件で、当事者が事実経過に違和感を覚えていたことも指摘されている。
そして、違和感を抱きつつも、決裁の都合などからこれを等閑視してしまったことが描かれている。
本書で紹介されている極端な事例を起点に少し思いを巡らすと、一般的な取引においても、眼前の書面のみを盲目に信用すると、思わぬところで足元をすくわれるかもしれないという恐れを抱く。
客観的事実との整合性、事実経過、関連人物など、少しでも違和感があれば、立ち止まるべきである。
そして、最後は、自らから発せられる微細な違和感に耳を傾けることがセーフティネットになるのかもしれない。