戦略がすべて 瀧本哲史 新潮新書
おすすめ ★★
近代ゴリラレベル ★★★★
1 はじめに
2 適当に紹介
(1)コケるリスクを排除する
(2)ブランド価値を再構築する
(3)アナロジーから予測を立てる
(4)不都合な情報を重視する
(5)戦略を持てない日本人のために
3 「多面的な人物評価」の難しさ
4 裸の王様
1 はじめに
今回は、読書感想文というよりは自慰的な備忘である。
面白いと思ったところを適当にとりあげた。
今後この形式でつづることが多くなるかもしれない。
本書は、初版の発行が平成27年であり、その当時の事象を素材として戦略思考を示している。
本書の発行直後に読めば新鮮な印象を持ったであろう。
一方で、少し時間が経過した今読むと一部の戦略思考で導かれてた結論の「答え合わせ」ができるという別の楽しみが生まれる。
2 適当に紹介
(1) コケるリスクを排除する(14頁~24頁)
「人」を売るビジネスには「三つの壁」がある。
① どの人材が売れるか分からない
② 稼働率の限界
③ 売れれば売れるほど契約の主導権や交渉力がタレント側に移る
これら「三つの壁」を止揚すべく構築されたシステムがAKBである。
(2) ブランド価値を再構築する(36頁~46頁)
「勝利の条件」は本質を見抜くことにある。
オリンピックで要求されている理念は自国中心主義ではなく国際交流である。
日本の五輪招致のプレゼンは本質を見抜き、的を射た内容、アピール(非言語の立ち振る舞いも含む)となっていた。
(3) アナロジーから予測を立てる(121頁)
アナロジーの元となるのは、過去の歴史、他の国の事例、全く違う分野で起きたことなどである。
(4) 不都合な情報を重視する(141頁~150頁)
裏をとる代わりに、逆をとる。
(5)戦略を持てない日本人のために(243頁~253頁)
戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのである。
身の回りに起きている出来事や日々目にするニュースに対して、戦略的に「勝つ」方法を考える習慣を身につけるべきである。
3 「多面的な人物評価」の難しさ
本書では、第5章(202頁~210頁)でAO入試がとりあげられており、「多面的な人物評価」の難しさが論じられている。
多面的な人物評価による入試選抜は、高校及び高校生の入試政策に影響を与える。
すなわち、「すでに答えが決まっていることをよりうまく、より安くやる人材」ではなく、「課題自体を創出して、 それを解くために専心する人材」を育成する契機になり得ると指摘する。
一方で、短期的に判断する人物評価の難しさも同時に指摘している。
すなわち、AO入試合格者は特定の対策予備校の関係者によって占められており、人物評価という選抜形態に適合的な生徒が人工的な培養されている現状は否定できない。
「ボランティア活動」の実績作りも含めたビジネスとしてパッケージ化されている訳である。
これは大人うけする典型的優等生ではなく、通常の入試選抜ではすくいとれないような個性的な生徒をすくい上げるという人物評価の本来の目的との関係では本末転倒であると喝破する。
4 裸の王様
私は、上記第3項の部分を読んで、開高健の「裸の王様」を想起した。
同作は、芥川賞受賞作である。
人工・模倣・平凡と自然・創造・非凡との二項対立が様々な場面、仕掛けで表現されている。
特に、子供を巡って大人の狡猾な思惑が交錯する様が見事に描かれている。
最後には主人公がこの思惑を根本的に破壊する痛快さも盛り込まれており、読後感も悪くない。
同作のハイライトは童話の一場面を課題としたコンクールである。
主人公の指導する生徒は、題材として「裸の王様」を選択する。
そして、その生徒は主人公が想定していなかったアプローチで作品を仕上げる。
冠を戴いた典型的な西洋の王様ではなく、ふんどし一丁の大名を描いたのである。
この柔軟な発想に主人公は膝を打つ(不意打ちのあまり、笑い出してしまう。)。
しかし、コンクールではこの「裸の王様」は簡単に落選してしまうのである。
西洋童話の一場面を何らかの素材を参考にして技術的には丁寧に仕上げた絵が入選 し、独創的だが技術的には未熟な作品が落選する。
大人に媚びた面白くない作品がことごとく入選する皮肉が見事に表現されている。
なお、本筋からは逸れるが、私は開高氏の作風が好きである。
理知の中にユーモアがあり、うならせる文章が多い。
この特徴は特にエッセイに表れており、例えば、『知的な痴的な教養講座』、『開口閉口』などはおすすめである。
タイトルからすでに開高氏の特徴がにじみ出ている。
瀧本氏の著作を紹介していたはずが、最後は何故か開高作品の紹介に力点が置かれてしまった。
これを再度軌道修正することは難しそうなので、ここで結びとする。