まず、本書の帯には以下の謳い文句がある。
「あの伝説のテキストがいまよみがえる!どうすれば創造的になれるのか?その核心を説く決定版・知的生産術」
さらに、目次を見ると、ヤル気術、気分管理術、読書術、知的生産の思考術…など実利的な項目が並んでいる。
加えて、本書は、一定程度硬派な著作を刊行するちくま学芸文庫から出されており、期待は高まる。
実践知に対する深い考察が示されている可能性があると考え、本書を手にとった。
しかしながら、蓋を開けてみると本書はエッセイに近く、期待は裏切られた。
著者は人文畑の人間であり、人文知への入門的な色彩が強くなっている。
そして、あえて毒を吐くとすると、本作は「人文畑の人間が書きそうな啓蒙書」という域を出ておらず、新鮮さはなかった。
後書きにもあるとおり、本書の想定読者は、大学の教養課程の在籍者である。
そのため、ビジネスパーソンが本書を手にとっても、少し物足りなさを感じることと思う(文体も学生に対する講義のノリである。)。
本書を読んでいて強く抱いた感想として、時代経過により知的生産の形態も変容するということである。
上記のとおり、本書の帯には「あの伝説のテキストがいまよみがえる!」という謳い文句があるが、本書の内容も時代経過により、一部は陳腐化を免れ得ない。
そのため、形式的な復刊が時機に適しているかは疑問である。
なお、この点に関しては著者自身も後書きで当然のように認めている。
備忘
(頁)
17 方法に着目する。方法は知識を上回る。
47 森鴎外のライフスタイルに学ぶこと、限られた時間の中での知的生産。
63 問いを答えやすい形式にするのが発想術である。
69 他人の発想法に学ぶことは多い。他人のノートの取り方、考え方などを観察すべし。
74 語学は筋トレ。暗唱主義。シュリーマンの語学学習法。
110 知的生産の12の工程
123 蒐集術、全てを集めることが重要。限定により全てになることもある。
128 探索術、分類学的発想と推理。
143 統計資料の読み取りの手法
163 からだを使って読んでしまう。黙読、音読、立って読む、場所を変える...etc
177 文章構造の図式化、ハイデガーとヤスパース、サルトルを例に。
196 最強の速読術は「不読の読」である。
218 読者としてメディアを計算して書く。株本氏の考えとも重なる。
236 ◎思考の言葉と書き言葉には断絶がある。
芥川龍之介は、「書くように話す」ということを言った。
この点に関して、開高健が釣りをしながら、まさに書くように話していた映像を思い出した。
245 ◎ユニット操作の技法をマスターする。森鴎外の文体。
252 考えることは身体的行為であることを自覚するところから思考術がはじまる。
275 有効な問題設定ができれば、問題は半分解決されたも同然である。
289 歴史的思考と論理的思考という対立する思考パターン。
358 フロイトが夢の内容よりもそれを語る本人の言葉づかいに鋭い観察を働かせていた例。