言葉につける薬
1998年
1 概要
言葉にフォーカスしたエッセイである。
ある用語の誤用、濫用を冷やかすことを主たる内容とする。
時には、言葉に関する考察を深め、文化人類学的な掘り下げがなされることもある。
なお、著者は、単に形式的に単語を正すのではなく「言葉」(ロゴス)を正したいと息を巻く(13頁)。
2 コメント
著者はロゴスを正したいと大げさに宣言するが、本書は肩の力を抜いて読める内容となっている。
何となく知ったような言葉を安易に使ってしまうと、誤った使用法になることがあり、恥をかくかもしれない。
本書は、読者に言語感覚を研ぎ澄ますように求める。
さらに進んで、用語の本来の意味を取り違えることで、そもそも物の見方が違ってしまう危険性も提示する。
例えば、「悪貨は良貨を駆逐する。」(161頁)や「至れり尽せり」(32頁)である。
本書を読んで、以前読んだ『センスある日本語表現のために』(中村明著、中公新書、1994年)を思い出した。
同書の中で特に印象的だったのは以下の話題である(88頁)。
「独壇場」(ドクダンジョウ)という言葉は、実は誤りで、「独擅場」と書いて「ドクセンジョウ」と読むのが正しいそうである。
そして、この事実を知った著者はどちらの言葉も使えなくなったそうである(誤った言葉を使うわけにはいかないし、あえて一般的でない言葉を使いいちいち説明するのもコミュニケーション上問題がある。)。