近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】人体600万年史

人体六〇〇万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 上・下
ダニエル・E・リーバーマン
塩原通諸訳
2018年
 

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 

1 概要
 人間の生物的進化と文化的進化の相互作用を六〇〇万年という大局から読み解く。
 
 生物学的進化が文化的進化に適応していないことによるミスマッチ病の存在などを挙げ、あるべき人間を考察する。
 
 
2 感想
 本書では、生物学的進化が文化的進化に適応していないことによりミスマッチ病を引き起こされているとし、当該環境要因をそのまま次世代に伝え、いくつもの世代にわたってフィードバックループが生じることについて「ディスエボリューション」という造語を与える(上261頁~)。
 
 我々の身体にとって何が普通で、何が異常なのか。
 600万年という異常に長いスパンの進化、生活態様の変化からの考察は、日常生活レベルでは気づき得ない視点を与えてくれる。
 
 
 下巻・第12章(228頁~)では、各論として、ランナー(靴)、睡眠、椅子が挙げられ、具体的に人体と文明的進展の齟齬を説く。
 この部分はとりわけイメージがしやすい。
 
 
 文庫版の解説は山極教授であるが、本書の意義に関する指摘が端的であり、至言である。
 
 
重要なことは身体のミスマッチを考慮して、みずからの暮らしを根本から見直す必要があるということである。
 本書には多くの具体的な数値と信頼できる事例が豊富に盛り込まれている。
 ぜひ一読して自分の体と暮らしを見つめ直してほしい。
 そこに新たな人間の生き方が浮かび上がってくれば、本書の目的は成功したと言っていいだろう。(324~325頁)

 

 
 
 身体の特性を理解した上で、周辺環境とのミスマッチを是正することで、自らの心身を最適化できるかもしれない。
 
 600万年のという壮大なスケールによる身体の読解は、単なる衒学的知識ではなく、心身の不調や生活の改善という極めて卑近で実利的な事項に接合する。
 
 本書は、タイトルから受け取る印象とは異なり、実は、極めて実利的な知識、視点を授けるのである。