雪ぐ人 「冤罪弁護士」今村核の挑戦
佐々木健一
新潮文庫
令和3年
職人の生き様である。
なぜ、冤罪の刑事弁護を主たる仕事とするのか。
今村弁護士は、「私が生きている理由、そのものです」と答えた(18頁)。
「だから、単に可哀想な人とかね、そんな風には思わない。
やっぱり、自分の性格もかなり誤解されやすくて、それによって苦しんだことも随分ありましたし。
孤独だった中学、高校時代とかが、被告人の孤独とも重なってくるんですよね」(197~198頁)
社会との接合に不自由さを覚える感情がくすぶっていたからこそ、職人が誕生したといえる。
損得を越えた情念が精神構造の基板となっている。
本書で私が最も印象的だったのは、読書に関する記述である。
今村は、それら一冊一冊をまるで我が子のように愛でていた。
「可哀想な本はいくつかあるんですけど、ボロボロになるまで読み込んだものといったら、これですかね」・・・ふと本棚を見渡すと、まったく同じ本がなぜか二冊置かれていた。
一冊は朽ち果てた本。
もう一冊は、比較的きれいな本だった。
「修復が限界を超えたから、新しいものを買い直して。
だけどね、読むときはやっぱり、こっちの古いのを読むんですよ。
その方がなんとなく、昔を思い出せるというか。
手垢がついているのは古い本だから、愛着があるんですよね。
私の生きる証であり、誤判研究の講師であり、歴史的な書物ですから。」174~176頁
重要と考える書物を繰り返し読み、自らの血肉とすることの重要性を改めて実感した。
また、物理的媒体としての書物が記憶喚起のトリガーとなる利点があることを再確認した。