近代ゴリラの読書感想文

元予備役。司法試験合格。国家総合職試験合格。

 近代ゴリラ=インテリジェントゲリラ

【読書感想文】雪ぐ人

雪ぐ人 「冤罪弁護士」今村核の挑戦
佐々木健一
新潮文庫
令和3年

雪ぐ人: 「冤罪弁護士」今村核の挑戦 (新潮文庫 さ 94-1)

 

 職人の生き様である。

 なぜ、冤罪の刑事弁護を主たる仕事とするのか。
 今村弁護士は、「私が生きている理由、そのものです」と答えた(18頁)。


「だから、単に可哀想な人とかね、そんな風には思わない。
 やっぱり、自分の性格もかなり誤解されやすくて、それによって苦しんだことも随分ありましたし。
 孤独だった中学、高校時代とかが、被告人の孤独とも重なってくるんですよね」(197~198頁)

 

 社会との接合に不自由さを覚える感情がくすぶっていたからこそ、職人が誕生したといえる。

 損得を越えた情念が精神構造の基板となっている。

 

 本書で私が最も印象的だったのは、読書に関する記述である。

 

 

今村は、それら一冊一冊をまるで我が子のように愛でていた。
 「可哀想な本はいくつかあるんですけど、ボロボロになるまで読み込んだものといったら、これですかね」

 ・・・ふと本棚を見渡すと、まったく同じ本がなぜか二冊置かれていた。
 一冊は朽ち果てた本。
 もう一冊は、比較的きれいな本だった。
 「修復が限界を超えたから、新しいものを買い直して。
  だけどね、読むときはやっぱり、こっちの古いのを読むんですよ。
  その方がなんとなく、昔を思い出せるというか。
  手垢がついているのは古い本だから、愛着があるんですよね。
  私の生きる証であり、誤判研究の講師であり、歴史的な書物ですから。」

174~176頁

 


 重要と考える書物を繰り返し読み、自らの血肉とすることの重要性を改めて実感した。
 また、物理的媒体としての書物が記憶喚起のトリガーとなる利点があることを再確認した。