KGBスパイ式記憶術
デニス・ブーキン、カミール・グーリーイェヴ著
岡本麻左子訳
水王舎
2019年
タイトルの印象とは異なり、本書で紹介される記憶術はオーソドックスである。
人間の脳は視覚的イメージを記憶するのが得意である。そのため、情報を記憶するためのテクニック(記憶術)は、ほとんどが抽象的な言語情報や数値情報を想像力によって視覚的イメージに変換するという手法を用いている。26頁
意外に堅実な記憶術の紹介にプラスアルファとして「スパイ」の要素が盛り込まれている。
机上での暗記ではなく、現場対応が想定されているのである。
一流のスパイには、見聞きしたことのなかに重要な情報があれば、どんなに小さなことでもそれに気付き、その情報を既に知っていることとリンクさせて解釈できる能力が不可欠だ。つまり、諸君がこれから記憶力を鍛えるにあたってまず必要なのは、物事に気付く注意力と、その情報を既に知っていることに関連付けられる想像力だ。28頁
さらに、本書を読み物として面白くするための工夫として、「全編をとおして、ある防諜作戦のストーリーが展開し、さまざまな文書と主人公の日記によって、そのストーリーが語られていく」(17頁)。
これについては、紙幅を割いている分、本書の記憶術に関する情報量は圧縮されているため、一長一短であるが、本書の特色にはなっているだろう。